町の人々

　小浜で生まれ、大学卒業後、家を継ぎました。長年、材木と瓦工事の2本柱で走り続けてきましたが、今は設計や不動産などの事業も始め、多方面に展開しています。

 

　不動産の資格を取り、その後に設計の資格を取得しました。資格を取ろうと思ったのはお客様との会話がきっかけです。当社のお客様は大工さんや工務店の方が多く、皆さんにオススメされたこともあり、取得しようと決めました。上中から高浜まで若狭一円の仕事をさせていただいてきました。

 

 

不動産を通じて、人と町の架け橋となる

　仕事のやりがいはなんといってもお客様の喜ぶ顔が見られた時です。不動産業でいうと、売りたい方と買いたい方を結びつけることが仕事です。自分が架け橋となれた時のうれしさはひとしおです。

　町家は一般的な住宅とは違い、売ったら終わりというわけではありません。瓦工事の場合は30年、50年と長く持つので瓦を葺き上げたらその後何か講じるということは基本的にありません。しかし、不動産業務に関しては販売後もさまざまな場面でお付き合いは続いていきます。

　例えば、この地区は重要伝統的建造物群保存地区（以下：重伝建）に指定されているのですが、その重伝建にまつわる悩み相談に答えたり、アドバイスなどもしています。あとは、税金に関するご相談を受けることも多くあります。

　今でこそ、一般の方との接点がいろいろな場面でありますが、設計と不動産を始める前は大工さんと工務店の方との接点が大半でした。仕事の多くはBtoBだったので、瓦屋根の葺替えの依頼などのご注文をいただかない限りはお客様の喜んでおられる顔を直接みるということはあまりありませんでした。

　不動産に関しての話で言うと、一般的に分譲と売買の仲介、賃貸と3つの業態がありますが、当社は仲介を中心にやらせていただいております。特に小浜西組は地元なので、地区ではたくさんのお取引に携わらせていただいております。

　この仕事をしているからこその気づきかもしれませんが、不動産の仕事をしているからこそわかる地域のことを伝えていくことも重要な役割だと思っています。地区のお付き合いや文化、風土などは、長く住んで、多くの人と関わっているからこそわかるものです。ご相談を受けた時、誰に相談すればよいかが明確にわかるので、その人たちをつなぐこともできるということが強みにもなっている気がしています。

 

 

町家エリアの「住みやすさ」をより対外的に伝える

　近年、この小浜西組地区は移住してくる方も増えてきているものの、空き家はまだまだたくさんあります。

　私が子どもの頃は本当に賑やかな町でした。時代によって移り変わりはありますが、駅周辺はもちろん、小浜西組周辺も非常に賑わっていた記憶があります。

　今でこそリノベーションと言われ、空き家を利活用する流れが生まれていますが、重伝建地区として選定する時は賛否さまざまな意見が飛び交っていました。伝統的建造物の指定を受けると、補助金が出るとはいえ、建物を壊すことはできなくなります。また、地区が重伝建地区に指定されると、鉄骨の高いビルなどは建てられなくなり、道路境界から下がった場所に建物を建てて前を駐車場にするということもできなくなるなど、個人の資産にもいろんな制限がかかってきます。何度も話し合いを重ね、紆余曲折ありましたが、2008年に重伝建に指定されました。

　今でも課題はいろいろありますが、私はこの地区の魅力である「住みやすさ」を発信していきたいです。

　コミュニティに溶け込めさえすれば、非常に住みやすい場所だと思います。現在は、若い世代や子育て世代の方でも、古い建物をリノベーションしておしゃれに住むというニーズが高まってきています。おかげでエリアによっては子どもが非常に多く活気が出てきていると感じています。

　ずっとこの地区に住んでいると古いものという認識でしかないですが、外からみると魅力になっているのだと逆に気付かされることも多くあります。長く住んでいる私からすると、その魅力に気づかれて移住してくる方が増えていくことは非常にありがたいことだなと思っています。

 

　さまざまな世代の人がいるからこそできることもあるはず。そこで、みんなが一つとなり、より住みやすい重伝建の町の魅力を発信し、まちづくりを作り続けていきたいと考えています。

　これからも、夜になって灯がともる、つまり人が住んでいるまち、“ベンガラ格子が灯る町”を目標に、日々活動しています。子どもの頃に見たあの景色をもう一度見るために、さまざまな人との架け橋として町に貢献していきたいです。