町の人々

コミュニティから何かが生まれる環境つくり コミュニティから何かが生まれる環境つくり

コミュニティから何かが生まれる環境つくり

馬場 淳子さん[職業:大師湯/kobo主宰]|小浜西組

 東京で生まれ、父親が転勤族で関東・関西を16回も引っ越しました。幼少期は奈良市の西大寺近くに住みました。そのころの奈良は、今と違って観光地という感じではなく、神社仏閣は子供たちの遊び場になっていました。

 

 

歴史や文化が生活に溶け込む小浜

 西大寺をはじめ唐招提寺・薬師寺・秋篠寺などを遊び場としていた私にとって、お寺はとても身近な存在でした。

 平安時代以前建立のお寺が好きで、その時代の神社仏閣が多くあるのは奈良県、滋賀県、福井県の若狭地方です。有名な神社仏閣ではなく、地域の人に守られた、本堂で書道教室があるような、地域の暮らしに密接したお寺や神社が大好きです。

 社会人になってからは仕事の息抜きに十一面観音めぐりが趣味になっていました。休暇を取っては、奈良・滋賀・若狭に23日の弾丸ツアーで隠れ寺を巡っていました。

 

 初めて小浜に来たのは、羽賀寺の十一面観音が目的でした。当時は国宝だったと思うのですが、彩色が残る立派な仏像が硝子で覆われることもなく、自分の息がかかるくらいの距離で拝観できることに感激しました。市内の他のお寺も巡りましたが、仏像は本堂の須弥壇に、あるべき姿で祀られるという、「暮らしの中にあるお寺の在り方」にうれしさと懐かしさをおぼえました。

 30代に入ってからは毎年小浜に足を運ぶようになりました。お寺だけでなく、小浜という町はありのままの姿、本来の人の暮らしが現代に残っていると感じました。

 いつの日か、こんなところで暮らしてみたいと憧れるようになり、小浜の物件を探し始めました。専門職サーチャーの技術を活かし、大手不動産サイトでは出てこない小浜市の不動産を調査しました。

 

 夫が東京生まれ東京育ちということもあったので、まずは滋賀県で田舎暮らし体験をし、夫が東京以外で暮らすことができるのか試してみました。思いのほか夫は地域住民と仲良くなり、地域の長老とも酒を酌み交わす順応ぶりで、地方移住に対する家族の心配はなくなりました。現在住む小浜の町家物件を見つけ、それが縁となり、夫は一足先に小浜へ移住、私は単身東京で仕事を続けていました。2011年3月11日、職場で東日本大震災に被災し、家族が離れて暮らすのは良くないと思いました。2012年の秋に早期退職をして私も小浜に移住しました。

 

 小浜市民としての生活が始まりました。移住した私たち夫婦を温かく迎えてくださったみなさまに恩返しをしたい、町づくりに協力したいという思いがあり、西組町並み協議会に入りました。ほかにも、ボランティアで観光マップつくりや移住希望者のサポートなど、積極的に町づくりの活動に取り組んできました。

 移住してからより町の魅力に気づくことが増えました。

 まず、介護の面です。私が一人っ子であったため、2013年に老いた両親を小浜に呼び寄せました。両親の介護に際し、ケアマネージャーやヘルパーの方の質が大変高く、気遣いが隅々まで行き届いていて、驚きました。

 次に水道水が湧水だということ。軟水でおいしいだけでなく、冬場の肌荒れがなくなったのもうれしい点です。

 また、小浜旧市街地は人と人との距離感が近すぎず遠すぎない、適当に構って・ほっておいてくれるという点も生活がしやすいと思います。そして、何よりもこの地域は昭和30年代・40年代の平和な日本の暮らしがそのまま残っていることが大きな魅力です。

 

 朝歩いていると、お地蔵さんに供えてあるお花のお水を変え、お茶を入れてという何気ない光景を目にします。これを見るたびに「良いなぁ、美しい日本」と感嘆、自分が暮らす地域の文化を大事にしているという印象を受けます。毎朝、家の前を掃いてキレイにするということが住民にとっては当たり前のことなのかもしれないですが、私からすると、こういうことも文化であり、大事に続けていかなければいけないことと考えるようになりました。

 

 すぐ近くであっても場所が変わると、町家の風情や建物の形、人の気質のほか、祭りなどの文化が異なります。このように変化に富んだ町も珍しいのではないかなと思います。

 また、山にスギなどの植林が少ない自然林ということも驚きました。四季によって山の景色が変わり、山が笑うということ身をもって実感できました。

 

 

地域の文化を守りながら、女性が輝く場所を作りたい

 生活をするようになって、課題も見えてきました。それは、自立している女性が少ないということです。優秀な女性が多くいるのに、活躍できていないというのは非常にもったいないと感じています。

 リモートワークなどで働き方は多様化している今だからこそ、輝ける場所も多くあります。自分の意見を言い、他者の意見に耳を傾け、議論をする習慣がない。自分の仕事に誇りと責任を持ち、新しいモノを創る場が必要ではないかと思っています。さまざまなことを詳細に分析することや、ものごとを長期的または鳥瞰的に考えることができる人や環境を作りたい。コワーキングスペースのある大師湯をその拠点にして、太師湯のコミュニティから何かが生まれてくる、プロが育つという形を作り上げていきたいです。

 これからも小浜に伝わる文化を守りつつ、女性が自立する環境や輝ける場所を作っていきたいと思っています。

Profile

Profile

1964年1月東京生まれ。
東京の短大卒業後、IT会社に就職、知財教育・特許調査の仕事に従事。
小浜西組町並み協議会では広報委員と事務局をしている。